‘いつも いつも 僕らはまだここにあるさ’

名盤。GrapevineがLIFE TIMEに込めた祈り


華々しくデビューを飾ったようにみえた。シングル「スロウ」がJPOPランキングで4位に食い込み、突如、脚光を浴びることになったグレイプバイン。

 

 

それは恐らく、彼らにとって予想外だったんだと思う。

自分たちが求めていたものと、周りから求められているものの違いに気付いた彼らは、鳴らす音に迷っていたんじゃないか。

そして、そのスロウが入ったアルバム、「Lifetime」が満を持してリリースされる。

 

Lifetime

Lifetime

 

 


なにが見たくて、何がしたくて、行きたかった理想の場所がくだらないものに見えたとき、突然どうしてこんなことをやっているのかわからなくなったとして。

 

 

彼らはその先になにを見たのだろう。

 

 

 

 

N.1 いけすかない では、「モノマネが得意な方がまだマシだ」、や、「君はそれで爪を伸ばしてる」、と。

皮肉ともとれる、ほとんどそうとしかとれない歌詞が並ぶ。

そのせいで、「世界がふたりを引き離していく」、と。歌詞を聴きこまなければ、意味について少し考えなければわからないようになっていること。音楽がインスタントに消化されていく音楽業界において、もはやそれ自体が大きな皮肉だ。

もしかしたらリスナーも、そうなのかもしれない。そういう聴き方が癖になって、どうせこの曲も、俺の気持ちなんてわかるわけがない、と、半ば諦めのような気持ちで、音楽を聴いているのかもしれない。


そんな僕らに彼らが語りかける。ここにいる君は、彼らの理想だ。ピロウズがストレンジカメレオンで「一緒にいるのが好き」と言っていた君と同じ。大切な憧憬。

そんな君と二人だけの空間で、

 

理解の向こうなど、もうみたくもないぜ
また期待してんのかい

 

から、ラスサビで一転。

 

理解を超えるための、新しいプライドで
また期待したいのさ

 

 

また期待したい、と唄う。

例えばここが、どんなに想像と違った、腐った場所だとしても、まだ「君」はいる、と。

アルバムの一曲目、あまり直接的な表現を嫌う彼らが、ここだけははっきりとそう言う。

 

 

N.4 光について は、そんな彼らが自分自身のことを歌っているようにみえる。

 

溜息の向こうで誰かがいつも 手を振っていた

光にさらされていくこの世界のなか 君を見ていられた

など、随所に君がいる。

まだ離せないでいる、歌いたいはずの君 だ。

 

分かり合ったつもりなら、それだけでいられた。 /N.4 光について

 

達観している。いや、これは装っている。簡単に分かり合えない難しさと、それでもきっと分かり合えるはずだと思っている自分とが、ぶつかり合っている。届くはずだと、届いてほしいと。

 


これはあるバンドの、再生へのストーリーである。

もちろん、理想通りにはいかないだろう。世界には、いけすかない、部分もあるんだって彼らは認めている。

それでも期待したい。捨てられない言葉がある。望みの彼方をみたい。全編通して、ずっとそう言うんだ。

まるで、祈ってるみたいに。

僕にはそれが、生きろと、聞こえた。

 

 

 

 

何度も、これからだって何度もそんな向かい風に、さらわれて、自分がわからなくなるときがくるだろう。間違ってたのかもしれないと、自分をきっと責めるときがある。それを彼らは、わかっているように歌う。

僕もその祈りに救われた一人だ。彼らが仄かに放っているその光は、どうしようもない僕をも、たしかに照らしてくれた。

それはきっと僕だけじゃないんだろう。この祈りに、暖かさに触れた人は、このアルバムに普通とは違う感覚を持つ。それが名盤たる所以なのだと思う。

だからGrapevineの彼ら自身がこの作品を名盤だと言う度に、他のリスナーが名盤だと言う度に、僕だけじゃなかったと、大袈裟に言えば、生きよう、と思う。

気付くんだ。諦めていたら、音楽なんか聞いてないんだ。本当にどうでもよかったら、救いはいらないんだから。聞きたくなるのはどこかでまだ分かり合えるって思ってるんだ。何度絶望しても、全部捨てたつもりでいても、まだ、掌の中に少しだけ残ってる。

彼らもそうだったのかもしれない。どうでもいいって何度思っても、どうしても諦められなかった。だから、ここに嘘はない。曲を聞き、アルバムを聴かない。そういうやつらからの評価なんて気にしていない。ただ、真っ直ぐに、疑っている自分の気持ちに答えたんだ。

「誰かに届くはずだ」って祈りを。

自分の掌の中に、微かに、でも確かに残ってる熱を信じて。

 


めぐりあうたびに溺れて
見失う度に胸焦がしてた その明日が、何も変わらない朝だとしても、

僕はその朝に向かうだろう。


惰性ではなく、自らの足で歩くことを選ぶよ。
絶望するだけが、無くしていくことだけが、生きていくことじゃないって教えてくれたから。

 

 

 

まだ夢は見れますか?君が何度も言ってた /N.12 望みの彼方

 

 

Grapevineはそれでも音楽を鳴らすことを選んだんだ。

 


Lifetime再現ライブのdvdを買った。

IN A LIFE TIMEと書いてあるそのジャケットを見て、すこし目が潤んだ。

心なしか、いつもより観客が笑っているように見える。

あの時、スロウが売れた時、歌うことを選んでくれてありがとう。いけすかないのイントロがかかった瞬間に、そう思った。

 

 

僕も生きなくちゃ。見ててくれ。

 

 

 

 

IN A LIFETIME (DVD盤)

IN A LIFETIME (DVD盤)

 
Lifetime

Lifetime

 

 

 

 

 

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