‘見覚えのない星がバカに目立つ夜だ 珍しく口を開いた君が言った’

 

 

旅立ちの夜と聞いてなにを思い浮かべる?

荷物をいっぱいにつめこんだリュック。お気に入りの本、トレードマークの帽子。小さく見えた自分。これから見ることになる毎日にワクワクしながら、靴を履いた瞬間、なんでか急に心細くなったこと。

 

 

 

そこから何かが変わっていくだろう

壊れた形や 消え失せた色    / Reminder

 

 

 

まだ小さいアナキンが、レースで優勝し奴隷から自由になる。

母と別れ、夢だったジェダイになる前の晩。

荷物をまとめて別れを告げる朝、アナキンは母に涙目で言う

「また会えるよね?」

母はゆっくり頷いたあと、アナキンの目を見て諭す。

「もう行きなさい。ふりかえらないで。」

 

 

 


これからの日常と今までの日常、ワクワクと不安。少し寒い、毎日感じていた、いつもと変わらない風。でも昨日までとはどこか違う。透き通っていて、大きく吸い込めばどこへでもいけるような気がした日。

 

 


僕にとってこの一枚は、そんな夜を体験できるアルバムだ。

 

 

ROCK END ROLL

ROCK END ROLL

 

 

 

いつまでも見られると思ってた見慣れた風景が、もう見納めだと思った瞬間に色濃く映る。聞こえる電車の音も、窓から見えた鉄塔も、朝決まってよく鳴く鳥も、よく見ればとても美しいことに気付く。

 

随分と大袈裟だろうか、だけど思い出して欲しい。あなたが旅をして見てきた景色を。
美しい景色だ。大好きな、目を閉じれば思い出せるような情景。
それと、今ここで見える景色の、一体なにが違うんだ。

 

本心の驚きだったり、それまでの苦労だったり、夢に見ていた景色だったりする。
そう見せるのは、もう2度と見る事はないだろうと、きっと見逃すまいとする心の動きなんだと思う。

そうしているとき、その目はとても澄んでいる。たとえ過去や今に、何かを抱えていても。

 

このアルバムはそんな旅と同じなんだ。通して聞くたびに、旅立つ前の、あのドキドキが戻ってくる。もちろん、すこしの孤独も一緒に。

 

彼らは見たことがない見覚えのない星を、自分たちにたとえ、足元を照らす光だといった。誰も知らない星が、いやだからこそ、彼らも知らない誰かを勇気つけていたんだ。その星は、そのつもりはなくても、存在する意味があった。僕はそう思うし、大きくなった、いい意味で感傷の少ない今のストレイテナーでは、作ることができない曲だと思う。

 

 



 

僕らは進まなくちゃ 先を急がなくちゃ

足がいうことを聞いてくれるうちに   / Rocksteady

 

もう夜はそんなに長くない。旅はいつか終わる。どんなに楽しい夜にも、終わりが来る。そう言っているように、わずか15分の旅は終わる。その1曲1曲の目まぐるしさは知らない町に突然放り込まれた感覚で、どこを見て良いのか、なにをしていいのかわからないまま、旅はおわってしまう。

でも聴く前より少しだけ胸が暖かい。この熱をきっと信じて良いんだ。消えそうになったり、わからなくなりそうになったらまた聞くよ。今度はどこへ連れて行ってくれるんだい。どこへでもいけるよ。今は昨日の傷だって痛むけど、星はまだ綺麗に見えてる。ふりかえらないで、といった、あの声が聞こえる。さびしいけど、大丈夫、また会えるさ。

 

またリマインダーのイントロをかける。

あの夜の感覚を逃さないように、すこし掌を握りながら。