‘暮らしの中に 何を見つけるだろう  演技のような笑顔 追われるシグナル’

 FoZZtoneが唄う、‘日常’について。

 

昼過ぎの斜陽が傾いて、僕がいつも座る座席には少し眩しい陽が差してくる。

 

季節が変わった、そう思うといつも聴く曲が、僕にはいくつかある。懐かしくて暖かくて、少し苦い。もう夏が迎えにきたバスの中で、大きく吸い込んだ息が体の中に溶けて混ざっていく。

 

 

 

暮らしの外に、非日常を探すけど

少し遠くていい 眺める景色の中に / 情景輻射 

 

 

当たり前にそばにある。FoZZtoneもそんなバンドだった。

日々の中にある、大げさでは決してない、だけどなくてはならない。そんな僕らの「普通のこと」を「特別」にしてくれた。

 

だけどそれは、すこしあとになってわかったことでもあった。あのとき僕らはまだ、何が特別かなんてわかってなかったのかもしれない。

 

特別な、素晴らしい、いつもの日常。

 

 

 

 

 

「すげえバンドがいるんだよ、聞いてくれよ」

昼間の空いてる電車の中で、隣に座った友人の興奮した言葉に、1も2もなくイヤホンを耳にした僕が引きずり込まれたのは夜だった。何回も繰り返し聞いた。湿り気のある夏の、半そででは少し寒い夜。遠くに高速道路のテールランプが並んで見えた。車道の光を、きらきら反射させて走っていく車たちは、どこか別の国の出来事のように思えた。

いつか、いつか僕も、そうなるのかもしれないな、と。どこか他人行儀だった。

 

 

 

 

 

 

どうしてだろう。休止と聞いて頭に浮かんだのは、あの時と同じ夜。いつも通りたくさんの知らない車たちが、いつも通り「僕の知らない」ところへ走っていった。

 

世界規模ではない、日常の暮らしから生まれたそのちいさなこと。見えていても通り過ぎて、そうして忘れていってしまうこと。彼らは一つ一つ手に拾っていった。繰り広げられる曲たちは、決して目の前から逃げようとしていない。僕が住む世界にも、同じように日常はあった。自分が嫌いでどうしようもない日にも、間違いかもしれないと思い込んだ日にも。

 

それでも、うまくいく気がした。うまくやれるさと、彼らは、繰り返し僕に言った。

 

「人知れず 強くなろうぜ」

 

 

痛い寒さのトゲが徐々に丸くなり、いつの間にか頬を撫でる風が優しくなった。

ほっとするような、安心してはいけないような、不思議な気分の中、

周りの人たちはいつも通り急いでいる。

だけど、今日はいつもよりもっと急いでいるように見えた。

ざらっとした、まとわりつく空気が、もうすぐそこまできている。

 

優しく流れるメロディは、いつもなんとなるさと僕に言った。だけど、なんとかするのは、いつだって自分なんだと、本当は、気づいていたのかもしれない。

あの頃、友人が聞かせてくれた、特段説明することもない、飽和するくらいあふれていた、いつでもそばにあった時間を、「特別」だったのだと感じるようになった。

大人になった、のかもしれない。

でもそれでもまだぼくはあの時を、「大切だと感じることができている。」

 

テクニカルに走れると思っていた、理由も。なぜ涙で霞む、のかも。友達と呼ぶのもためらう、気持ちも。

もうきっと、今の僕にはわかる。

 

あの頃、わからなかったもの。わからなくてよかったもの、わかりそうで、見て見ぬふりしていたもの。そうして手を離れて行ってしまったもの。

 

 

いつかくる、とわかっていたはずだった。

高速道路を通り過ぎていく車の群れのように、それはきっと最初から知っていたんだ。なくならないバンドなんてない。消えない記憶なんてない。だからこそ鋭く、甘く聞こえたんだ。

 

 

 何も知らないのは、今もおなじさ / 水際

 

 

 

 

 

ぼくが変わったのかもしれない。だけど、聞いていて、なんでいなくなってしまったんだって、誰かに言いたくなる時がある。ぶつけどころのない感情が、どうしても抑えきれなくなる時がある。「見つけようぜ」と叫ぶ渡曾に、いつかの自分を重ねている自分がいる。あの頃、見つけたかった未来。おぼろげながら存在していて、僕をまっすぐ立たせた、あの瞬間、たしかに僕は、無敵のイメージをもっていた。

 

 

 

 

これもいつか消えてしまうかもしれない起伏なのかと、愛おしく思う。

 

 

どこにでもある、ただの歌とメロディだと、もう一人の自分が言う。

冷静になれ。感情に振り回されるな。もう終わったことなんだ、と。

 

 

どこにでもある、ただの歌。

 

 

怠惰で、ずっと続くと思っていた。どうでもいい、代わり映えのしない、気怠く美しい、

特別な、素晴らしい、いつもの日常。

 

 

FoZZtoneってバンドがいたんだよ」

 

 

夜中の高速道路を走るとき、テールランプを見ると、あの曲を、あの空気を思い出す。

 

あるはずの、月を探す。

 

 

*1

 

 

カントリークラブ

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VERTIGO

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平らな世界

平らな世界

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:

ふく しゃ 0 【輻射】

( 名 ) スル

〔車の輻(や)のように,ある一点から周囲放射状射出する意〕